IWG ラインランドの会場と私たちの宿泊先は、かつてカトリックの修道院だった建物をホテルに改築したもの、「カーディナル・シュルツ・ハウス」と呼び枢機卿の名を残しています。(左写真参照)遠くケルン大聖堂を見渡す小高い丘に立っています。
ロビーや回廊は大理石を張りつめ立派なのですが、シングル・ルームは狭いしベッドも小さくて固い、清貧と質素を旨とする修道士の生活を偲ばせます。身長185CMはありそうなパークス先生は、完全にベッドから足がはみ出して困ったそうです。バスはなくシャワーだけなのも季節外れの寒い夜には足が冷えてつらかったですが、せいぜい修道生活に思いを馳せて我慢しました。 ハウス(ホテル)にはチャペルが隣接していますが、ナチのユダヤ人撲滅の犠牲になった修道女で哲学者、エディス・シュタイン記念聖堂となっていました。会議でご一緒したデ−ケン先生に彼女の生涯を説明していただきました。デ−ケン先生の父上は反ナチ主義、レジスタンス運動を貫かれたと聞いていました。 ナチと言えばカーディナル・シュルツ・ハウスは戦争中、ナチの本部として使用されていたと聞き,一瞬ギクッとしました。美しい国ドイツですが、一方で、ナチの非人間的暴挙は歴史的汚名として拭いされないのですね。実は、IWGの会員の中にはユダヤ人の方々が結構多いので、ホロコーストの話題はかなりデリケートです。開催前から今回このテーマを扱うか否かで揉めていました。 結局,セミナーで取り上げることになり、演題は「ホロコーストから65年:現代ドイツへの影響」ということで3名のドイツ人の見解/経験と、サイモン・ルビン先生(ユダヤ人、グリーフ理論で有名)が発表をしました。これについては別途書きます。 初日(9日)の夕方には歓迎ディナーがあり、世界18カ国から集まった会員が一同に会して再開を喜びあいました。主催国ドイツチーム趣向を凝らし、余興として地元の大合唱隊によるコーラスを聞かせてもらいました。その他の機会にも、教会のパイプオルガンの夕べや,ビヤ・レストランでの民謡大会、送別・ディナーのアフリカ音楽とダンスの集いなど用意されており、音楽好きなドイツならではでした。 初日のディナーのあと、ワインやビールにほろ酔い加減の人も多く、また、その日に遠路到着し疲れた人たちも多い中、全体会議が行われ、IWGの特色であるテーマ別分科会の決定、個人的にどの分科会に参加するかの選択を迫られました。遊びは遊び、でも仕事も決して忘れません。私は、前回同様、「複雑化したグリーフとその治療」について討議するグループに参加することにしました。敬愛するニーメヤー先生がリーダーです。会期中合計9回、グループは集まる予定です。 その報告は次のブログで。 #
by yoshikos11
| 2010-05-31 02:13
すっかりご無沙汰しました! 5月8日から21日までドイツへ出かけていました。ケルン市で行われた死生学の国際会議(IWG 〜International Work Group on Death, Dying and Bereavement)へ参加と、その後、数日間ドイツ国内、主として西南ドイツをドライブ旅行してきました。
ドイツは初めて訪れましたが、ケルンを始め、ライン河の中流に位置するこの一帯は、緑豊かなグリーンランドと呼ばれるだけあって、ひとことで「実に美しい国」です!どこへ行っても青青した平原と、緑の森が果てしなく続き、ゆったりしたラインの流れとともに自然が目を癒してくれました。 ローマ人たちはこの美しい地帯を見逃さなかったのでしょうか。彼等が領土拡張の拠点作りをしたことから中流ラインの町並みには、ローマ時代の建築の名残りが見られ、私たちをタイムスリップさせてくれます。それ以降、キリスト教が布教し、中世時代にはロマネスクやゴシック様式の大聖堂や修道院があっちこちに建てられました。 左の写真はケルンの大聖堂、 ヨーロッパでも屈指のゴシック建築として有名です。会議の前日にドイツ入りしたので、一日はケルンの町の様子を探ることができ、この大聖堂を見学しました。日曜日だったのでミサをやっていて、幸運にも荘厳な聖歌隊の合唱とパイプオルガンの演奏を聴く事ができました。パイプオルガンは、天を貫くほど高い聖堂にこだまし、身も心も揺さぶられるようでした。密かにミサの末席に座り(I先生とご一緒に)次の日から始まる会議が実り豊かでありますように祈りました。 ドイツ旅行のイントロはこの位にして、いよいよ次のブログではIWG学会の模様を書こうと思いますので、お楽しみに!あまりにも書く事がたくさんありすぎて、何回かに分けて報告します。 #
by yoshikos11
| 2010-05-30 02:38
NHKの特番「無縁社会」について多数の方からご意見をいただき、あれから色々考えていたのですが、「直葬」が増えた最大の理由は、貧困や独居の増加というよりも(NHKはそのことを強調していましたが)、何と言っても高齢者人口の増加ではないかと思えて来ました。
最近のベストセラー、島田裕巳著「葬式は,要らない」で同じことが指摘されています。確かに90歳以上の方には、兄弟姉妹や、いとこたち、友人などがほとんどいなくなり、亡くなった場合にごく身内のほか葬儀に来る人がほとんどいないのが通常でしょう。ひっそりと家族葬や直葬を執り行うのが理にかなっているのかもしれません。 ある方が「会社の大先輩(恐らく80歳以上)が亡くなり、葬式に行ったけど、チラホラとしか参列者がいなくて、年寄りの葬式は実に寂しいものだなあ」と言っていました。 しかし、葬儀に参列するしないの決断は、必ずしも故人を知る知らないとは関係なく、遺族との関係で礼を尽くしたいと思えば行くことがあるわけです。島田氏も「故人の交友関係について、遺族が知らないこともあるので、さっさと家族葬にしたら、後で『なぜ報せてくれなかったんだ』と何人かの人から苦情を言われた」というケースもあるとのことです。「お線香だけでも上げさせて下さい」と後日自宅に来客が次々とあり、葬式を簡略にした分、あとが大変だったとか。 私も「なんで知らせてくれなかったの!」「水くさい」と思ったことがあります。学生時代の友人のご主人が亡くなって、数ヶ月経ったころ偶然知ることとなり、「知っていたらぜひご葬儀に伺いたかったのに」と残念に思いました。友人は私の夫が亡くなった時には、葬儀に来てくれたので,礼を返したかったのです。亡くなったご主人とは面識はなかったけれど、彼女を慰めたい気持ちがありました。 確かに、現代人は皆忙しいので「人さまを煩わせたくない」「迷惑をかけたくない」「高齢なので死ぬことは順当(当たりまえの)だからオオゴトにしたくない」など相手のことを配慮してか、「内輪に内輪に」という傾向になってきたのでしょう。 しかし、例え何歳になっても一人の人が死ぬということは、オオゴトには違いありません。いくら忙しくても、人の生き死により優先順位が高い仕事や約束ごとが、そうそうあってしかるべきではない気がします。「直葬」が増えた背景にありそうなことで、私が一番気になることは、こうした「現代主義」の徹底と偏重なのです。 私のサイトもよろしく:http://www.gcctokyo.com #
by yoshikos11
| 2010-04-27 03:18
夕べブログを書き終わったら明け方の4時になってしまいました。頭が大分朦朧としており「尊厳死」などという重大なテーマについて考えるには、ふさわしい状態ではありませんでした。それで何か大切なことを伝えそびれたような気がして、再度チャレンジしようと思います。
まず、私は死生学を修学したとは言え、同じ死生学でも興味と関心は「終末期」(end of life)よりも「死別」(ビリーブメント)と言うことがあり、前者の話題はどうもスムースに話せないのかもしれません。後者は自分の体験があるので、色々想像を巡らせて筆も進むのだと思います。 さて、「尊厳死」について、いつも思い出すのはカナダでの有名な判例で、スー・ロドリゲスのケースです。ロドリゲス嬢(当時、40歳前半)はALSの患者でしたが、症状悪化が進む前に自らの命を絶ちたいと希望します。身体機能を全て失って自分らしく生きることができないのなら、死を選びたいし、自死が可能な今、実行したいと訴えます。主治医も彼女に同情して、自殺幇助に賛成します。しかしカナダの現行の法律では自殺幇助は許されませんでした。 そこで、ロドリゲス嬢は国を相手に裁判を要求します。その結果、自殺幇助に対して、判事の判決は反対VS賛成が、接戦で5対4に別れました。反対派の言い分は「人の命は根源的に神聖なるもの、何人たりとも〜自己も含めて〜それを侵すことは許されない」というもの。一方、賛成派は「人間の尊厳は自己決定にあり、それを保証するのは選択の自由である。身体的機能を失ってはその自由も奪われるので、尊厳を維持することは不可能。よって、原告は自由を尊守する意味で自殺を認める」ということでした。 要するに、この判例では「命の根源的な不可侵性」対「尊厳維持のための自己決定権」という二つの主張に分かれたということです。そして、判決が5:4という接戦であったことが、如何に「尊厳死」が難しい問題であるかが分ります。 裏話として、結果的にはロドリゲス嬢敗訴しましたが、彼女の医師が法に触れない何らかのやり方で、彼女が命を絶つことを間接的に支援したと言う話でした。 ここで興味ある点は、「命の神聖性」を主張した判事が「決して宗教的な意味で言っているのではない」と強調したことです。キリスト教を持ち出すまでもなく、人間であれば命に対して畏敬の念を持っているという意味なのでしょう。 今夜はこれくらいにします。 私のサイトもよろしく:http://www.gcctokyo.com #
by yoshikos11
| 2010-04-25 03:58
今週火曜日。慶応義塾大学看護学部で「スピリチュアルケア研究会」があり、参加しました。その日は夕方から雨あしがひどくなり、外出しようか、止めようか迷った末、此の会が2年振りの開催で関係者の方々ともお会いしたかったので、意を決して出かけました。テーマは「尊厳死」についてで3名の講師の発表がありました。
慶応看護学部の加藤真三先生、聖ヨハネ桜町病院の石島医師、パストラルケア研究所のキッペス神父の3名でした。加藤先生のお話では、尊厳死や脳死の定義、医療事例の検証、最近発表された厚労省、医師会、救急医療団体などの「尊厳死」を認めるためのガイドラインについてなど、説明がありました。いずれも、一般人としても押さえているべき知識、私自身、知らないこともあり良い学習ができました。 しかし、「脳死」を人の死と認めるか否か、これは本当に難しい問題ですね。脳の前頭葉の機能がダメになることを植物人間状態と言うとのことですが、たとえそうなっても、人間の精神性の何かが、すなわち「心」がどこかに残されている可能性もあると言うことで、この実証は未だできないそうです。 石島先生は植物人間状態になった患者さんを数多く診て来られたご経験から、そう言う患者さんにしてあげられることがほとんどないことで、医師としては徒労感を禁じえないのだと言われました。また、ご自身はそうなったら「尊厳死」させて欲しいと思うと言われたことは、考えさせられました。 キッペス先生は、その辛口というか、うがったものの見方で「あっ」と思わされることが多いのですが、尊厳死とか死の問題を「生」の問題と切り離しては考えられないということを強調され、特に、「自分の生を大切にして生きて来なかった人が、尊厳死について論ずる意味がない」と言われたことが心に残っています。また、尊厳死のテーマを、死後の世界を視野に入れずに語ることがどこまでできるのか、限界があるというようなご意見だったと思います。 先生方のお話を聞いて思ったこと。自分のこととして、日頃から万一自分が「脳死」状態になったら、どうして欲しいか家族に語っておくことが極めて大切であり、また、遺言に書き知るしておくことが重要だと痛感したのでした。そう思いつつ、生きることに追われており、死ぬことについての準備は中々着手できすにいます。 #
by yoshikos11
| 2010-04-24 03:52
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