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偉大な指揮者と妻の選択

 今週、英国BBCフィルハーモニック・オーケストラの指揮者、サー・エドワード・ダウンズ夫妻の「ダブル・デス」(夫婦の心中)が報じられました。色々な意味でショックと大反響を起したようです。

 心中と言えばシェークスピアの「ロミオとジュリエット」や、日本でも近松門左衛門の作品「曾根崎心中」などこの世で叶わぬ恋をあの世に託した話は有名です。いずれも若者のロマンスなのですが、サー・エドワード夫妻(夫、83歳、妻、74歳)の場合には、「高齢者」の問題として考えさせられます。

 サー・エドワードの音楽家としての名声の影には、彼を物心両面で支えた妻、ジョーンさんの偉大な存在がありました。二人の「おしどり夫婦」ぶりは衆知の事実だったそうです。

 結婚生活53年、特に、晩年には彼が視力を失い、彼女が付き添うことで音楽活動をかろうじて続けていたようです。さらに彼は最近聴力も失い始め、音楽家として致命的な打撃に、不安も募り、益々妻の支援が必要になりました。

 そんな状況で、最近、妻ジョーンさんが末期がんの宣告を受け、余命半年を言い渡されました。サー・エドワードにとって、彼女のいない人生など到底考えられなかったのでしょう。妻も障害を抱えた夫を一人遺すことに断腸の思いがあったのかもしれません。

 それで夫妻は「自殺幇助」を許しているスイスに亘り、二人、手に手を取って死ぬことを選択しました。息子と娘も両親の思いを理解し、認め、最後の場面に立ち会いました。

 英国でも日本でも「自殺幇助」は法律で禁止しています。しかし、サー・エドワード夫妻の選択は、単に法律的な問題として騒がれていると言うより、生命倫理の立場から様々な論議がなされているようです。いわゆる「尊厳死」が許されるかどうかという議論です。

 また、ある批評家が、サー・エドワードがカウンセリングの介入を良しとしたら、身体的障害、妻のがん告知、その後の死別によるグリーフなど、晩年にありがちな危機を何とか乗り越えられたのではないのかとコメントしていたことが印象的でした。

 しかし、高齢で身体的自立を次々に奪われ、生涯、情熱を傾けた音楽活動まで奪われ、更に最愛の人を奪われたとしたら、そうした高齢者の苦悩や絶望は、同じ立場にないものが容易にコメントできるとも思えないのです。

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by yoshikos11 | 2009-07-24 12:49
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